入学式はどこで立つなどの指示もなかったため、皆の行動がバラついたが、僕たちは一ヶ月前まで卒業式の練習をしていた。
だからだいたいの行動は理解していた。
校長式辞、PTA会長式辞、学区連合会式辞と、着々とプログラムの内容が進んでいった。
そしてこの時がやってきた。
「では、担任紹介に移ります」
教務主任の先生がマイクに向かって言った。
みんなが少しざわついた。
「クラスA〜池田先生にお願いします」と言って発表が始まった。
呼ばれた先生はそのクラスの列の前に立った。
「……続いて〜クラスC〜」
僕のクラスだ。緊張がはしった。
「植川先生にお願いします」
1人の先生が動いた。どんどん近づいてくる。誰だ?どんな先生なんだ?男?女?姿勢を正している僕の視界にまだ担任の姿は見えない。
カッカッカ 靴の音が聞こえる。
次の瞬間だった。「パシャッ」写真を撮る音が聞こえた。はじめは親かと思ったが、それにしては近すぎる。
誰だ?うつむいていた顔を上に向けた。緊張はすぐに和らいだ。
前にはスマホを片手にしたスーツ姿の男性が立っていた。長いストレートの髪を一つに束ねている。
この人だ。僕の担任だ。怖そうではない。むしろ笑えるくらい個性的な先生だ。
少し安心した。ついでに美人の女の先生を期待していた僕の期待ははずれた。
式が終わり、教室に戻った。まだ名前も知らないクラスメイトがたくさんいる中で出た話題は担任についてだった。
「あの結び方なんだよ、男なのに」「なんかテレビで前見たことあるかも」「それってダンサーのあの人じゃない?」「確かに似てるかも」「何才くらいかなー」と、みんな言いたい放題だ。
クラスがガヤガヤしていたので気づいていなかったが、知らない間に後ろには親たちが立っていた。うちの母さんはいない。
それから何分もしない間に先生が入ってきた。教室は静かになった。
先生は荷物を教卓の上に置き、チョークを持った。
カッカッと黒板にチョークがあたる。ドラマとかでよく見るあの場面、先生が黒板に自分の名前を書く場面だ。
それにしても下手な字だ。僕はあまり字の上手い方じゃない。でも先生の字よりは上手い自信がある。
書き終えたらしく、先生はくるっとこっちに振り返り、にっこっと笑った。そして
「植川卓已(うえかわ たくみ)ですっ」と言った。
よくあるやつだ。みんなはいっせいに拍手をした。先生は音楽が終わる時のように、手をブンっと振って、グーにして止めた。
また教室に静けさが戻った。先生はウインクをし、
「ウエタクって呼んでね☆」と言った。
みんなドン引きだ。ざわついているのは親たちだけだ。
先生は意外にもウケなかったのがショックだったらしく、少ししょぼんとしたが、すぐに気を取り直し、ウソっぽい咳払いをした。
「えーそれでは、教科書を配ります。出席番号順に取りにきてください。」
僕たちは席を立ち、教科書を取りに行った。
女子の最後の子が取り終わると先生はもう一度教室を見渡してにこっとした。
そしてとびきり大きい声でこう言った
「今日から君たちは僕の生徒ではなく、仲間です。先生も君たちと同じクラスメイトです!よろしくお願いします」
予想外だった。そうか、仲間か、いいことをいう人だな。僕はそう思った。そして拍手をした。僕に続いてちらほら拍手の音が聞こえる、そしてそれはひとまとまりの音になって教室中に響いた。
その日は結局後ろの彼の名前を聞きそびれてしまった。きっと彼もそう思っているだろう。
だからだいたいの行動は理解していた。
校長式辞、PTA会長式辞、学区連合会式辞と、着々とプログラムの内容が進んでいった。
そしてこの時がやってきた。
「では、担任紹介に移ります」
教務主任の先生がマイクに向かって言った。
みんなが少しざわついた。
「クラスA〜池田先生にお願いします」と言って発表が始まった。
呼ばれた先生はそのクラスの列の前に立った。
「……続いて〜クラスC〜」
僕のクラスだ。緊張がはしった。
「植川先生にお願いします」
1人の先生が動いた。どんどん近づいてくる。誰だ?どんな先生なんだ?男?女?姿勢を正している僕の視界にまだ担任の姿は見えない。
カッカッカ 靴の音が聞こえる。
次の瞬間だった。「パシャッ」写真を撮る音が聞こえた。はじめは親かと思ったが、それにしては近すぎる。
誰だ?うつむいていた顔を上に向けた。緊張はすぐに和らいだ。
前にはスマホを片手にしたスーツ姿の男性が立っていた。長いストレートの髪を一つに束ねている。
この人だ。僕の担任だ。怖そうではない。むしろ笑えるくらい個性的な先生だ。
少し安心した。ついでに美人の女の先生を期待していた僕の期待ははずれた。
式が終わり、教室に戻った。まだ名前も知らないクラスメイトがたくさんいる中で出た話題は担任についてだった。
「あの結び方なんだよ、男なのに」「なんかテレビで前見たことあるかも」「それってダンサーのあの人じゃない?」「確かに似てるかも」「何才くらいかなー」と、みんな言いたい放題だ。
クラスがガヤガヤしていたので気づいていなかったが、知らない間に後ろには親たちが立っていた。うちの母さんはいない。
それから何分もしない間に先生が入ってきた。教室は静かになった。
先生は荷物を教卓の上に置き、チョークを持った。
カッカッと黒板にチョークがあたる。ドラマとかでよく見るあの場面、先生が黒板に自分の名前を書く場面だ。
それにしても下手な字だ。僕はあまり字の上手い方じゃない。でも先生の字よりは上手い自信がある。
書き終えたらしく、先生はくるっとこっちに振り返り、にっこっと笑った。そして
「植川卓已(うえかわ たくみ)ですっ」と言った。
よくあるやつだ。みんなはいっせいに拍手をした。先生は音楽が終わる時のように、手をブンっと振って、グーにして止めた。
また教室に静けさが戻った。先生はウインクをし、
「ウエタクって呼んでね☆」と言った。
みんなドン引きだ。ざわついているのは親たちだけだ。
先生は意外にもウケなかったのがショックだったらしく、少ししょぼんとしたが、すぐに気を取り直し、ウソっぽい咳払いをした。
「えーそれでは、教科書を配ります。出席番号順に取りにきてください。」
僕たちは席を立ち、教科書を取りに行った。
女子の最後の子が取り終わると先生はもう一度教室を見渡してにこっとした。
そしてとびきり大きい声でこう言った
「今日から君たちは僕の生徒ではなく、仲間です。先生も君たちと同じクラスメイトです!よろしくお願いします」
予想外だった。そうか、仲間か、いいことをいう人だな。僕はそう思った。そして拍手をした。僕に続いてちらほら拍手の音が聞こえる、そしてそれはひとまとまりの音になって教室中に響いた。
その日は結局後ろの彼の名前を聞きそびれてしまった。きっと彼もそう思っているだろう。