1年C組。ここが今日から僕のクラスだ。教室に入るとまだあまりみんな来ていなかった。

座席表を見て席に着いた。廊下側の後ろから2番目の席だ。8時10分を過ぎた頃、ぞろぞろと人が入ってきた。

この子たちがこれから僕のクラスメイトなのか。よろしくお願いします。心の中でつぶやいた。

教室は来た人でだんだん埋まっていった。しかしなかなか隣や後ろが埋まらない。何故僕の周りだけ人がいないんだよっ!

急に不安になる僕。次々人は入ってくる。この子かこの子かと毎回思うが近くの子ではなかった。

そろそろ我慢の限界だ。そう思った頃だった。「ガラガラガラ」戸が開く音がした。教室に入ってきたその子は焦り半分で座席表を確認した。そして席に着いた。僕の隣の子だ。だが前には先生がいる。隣を見ることはできない。そわそわしながらチャイムが鳴るのを待った。

最後に教室に入ってきたのは僕の後ろの子だった。遅刻ではなかったが、小声で「すいません」と先生に言っていた。

それから間もなくチャイムが鳴った。

先生は「9時から入学式だから10分前には並んどけ」とだけ言い、教室を出た。

僕は迷わず横を見た。隣に座った彼女は静かに本を読んでいた。話かけるのは後にしようと決め、そのまま90度後ろに振り返った。

後ろの彼もちょうど僕に話しかけようとしていたらしく、片手が少し上がっていた。振り返ったものの、何を話すか決めていない。

迷っていると後ろの子から話しかけてくれた。

「君、何小?」

やはりそこくる?と思いつつ

「荒小。君は?」

と答えた。すると彼は

「僕は荒北。ってかさ、君ってやめない?自己紹介しようよ」と言った。

それもそうだ。で、僕は

「そうだね、じゃあどうぞ」と言った。

すると彼も「どうぞ」と言った。でまた僕も「どうぞ」といい、二人で「どうぞ」の言い合いが始まった。

「あぁ、もう一人いてくれたら」

と僕は思った。きっと彼もそう感じているだろう。

すると突然

「じゃあ私から!」

と突然声がした。振り返るとそれは隣の子だった。

「海崎⁉︎」僕は次の瞬間そう叫んでいた。"海崎瑠美(かいざき るみ)"彼女は去年まで家の都合で海外に転勤していた。

久しぶりだった。と言っても実は彼女、去年の秋に帰国していたらしく、卒業式には出ていたらしい。

そういえば僕は去年の夏から2月末までとある病気で入院していたのだ。どうりで知らないわけだ。

すると突然「ん?」という小さな声が聞こえた。後ろの彼だ。

「海崎…?」彼は少し考えて「海崎ぃぃ⁈」と中声で叫んだ。

本人にはキョトンとしている。「海崎っておまえ鳴海塾か⁈」彼は椅子から腰を浮かせてそういった。

「そうだけど何か?」海崎は何故彼が驚いているのか理解できないようだ。

僕はすかさず「なんで君が海崎のことを知ってるんだ?こいつ去年まで海外転勤してだんだぜ」と言った。

すると彼は答えた。

「僕、海崎と塾一緒なんや。海崎はこないだ入ってきたんやけど。こいつ授業中にいちいち先生の話したことに突っ込んできてうるせーんだよ」

「それ本人の前で言う?」

海崎は半分ショックのようだ。しかしさすが海崎だ。何事もなかったように気持ちを切り替えた。

「もう名前バレちゃったけど、一応自己紹介しとくね!海崎瑠美。誕生日は12月18日。マチの2日前だよ〜 好きなことは絵を描くことと本を読むこと。習い事は英語と塾と絵画教室。体操とピアノも習ってたけどやめちゃったの。なんでも食べるけど、寿司はサビ抜きじゃないとダメだし、コーヒーの匂いは倒れそうになるくらい無理。ゴーヤも食べれないな。あ、兄弟はいません!一人っ子だよ マチと一緒の荒小でした。それくらいかな?」

と海崎の自己紹介は終わった。相変わらずよく喋る奴だ。

ちなみに「マチ」とは僕のことだ。僕は「井室まさき」(いむろ まさき)名前は平仮名だ。

幼稚園の頃、誰かが「マチ」とよんで以来、僕はマチと呼ばれている。「じゃあ次僕で」と言いかけた頃チャイムが鳴った。

10分前には並んどけという指示をすっかり忘れていた僕たちは、慌てて廊下に並んだ。

結局後ろの彼の名前は不明のままだった。