そう、それは忘れもしない朝6時48分。

一本の電話がかかってきた。

両親共今日は遅番だったので、僕はてっきり親からの電話だと思った。

「はい。もしもし」

僕は眠い目をこすりながら電話に出た。



電話の相手は何も話さない。

無言のイタズラ電話だと思い、僕は電話を切ろうとした。

瑠美が… 瑠美が… どこにも…

海崎のとこのおばさんの声だった。

「海崎、いないんですか?」

僕はまさかと思いながら聞いてみた。

返事はなかった。ただ電話ごしで泣いている海崎のおばさんの泣き声しかしなかった。

僕はとりあえず着替えて外に出た。どこに行こう。海崎はどこに…

考えろ。考えろ。

そして真っ先に思い立ったのは "桜ヶ丘展望台"だった。

そこはC組のみんなで初めて行った場所。そして海崎がこの間中央公園から遠い目で見ていたところ。

海崎はそこにいる。僕は確信した。急がなくては。

僕は自転車を飛ばした。まだ朝早い。多少車はいるが、それくらい大丈夫。

とにかく今は海崎を見つけなければ

走った。とにかく走った。

そして 僕は絶望した。

展望台の一番大きな桜の木の下。あの頃は桜が満開だった。みんなで花見をした。持ち寄りのサンドイッチ、多すぎるおにぎり、形がいびつだった桜餅。

あの景色、あの思い出。昨日のように思い出す。そこで海崎は…

死んでいた

手には空になった睡眠薬。体はまだ温かかった。なのにもう彼女は目を覚まさなかった。何度読んでも返事をしない。あの爆発トークをしていた唇が青く変色していく。体が冷たくなっていく。

海崎… 海崎…

僕は涙も出ない。 あまりの絶望に涙も出ない。なぜなんだ。なぜ彼女は海崎は逝ってしまわなければならなかったんだ。

海崎との思い出が蘇る。あの笑顔ももう見ることが出来ない。あの温かな温もりをもう感じることもできないのだ。

僕はしばらく海崎を抱きしめた。冷たくなっていく体を僕はしばらく抱きしめていた。

それからしばらくして、海崎のおばさんに電話をした。おばさんは空っぽになってしまったかのように はぁ と息をはいた。

救急車がやってくる。警察も念のため呼んでおいた。検診をした後サイレンのならない救急車が海崎を乗せて走っていった。