もうすでに夜9時過ぎだというのに
一向に蝉は鳴く事を止めない。


じんわりとベタつく風とは逆に、夜空を埋める星がとても綺麗だった。



「さて、じゃあ始めますか!」

はい、と桜井くんから渡された懐中電灯を受け取る神楽くん。


「本当にやるのかよ。」

「当たりめーだろ!ほら、行って来い!」

しっしと猫を追い払うように、手のひらを振る桜井くんに神楽くんと二人、渋々歩き出す。



暗闇に、二人の足音が重なって妙な緊張感があたしを包んだ。



どうしよう…。
まさか、神楽くんとだなんて…。



『何であたしが神楽くんとなの!?』

『バカだな、日和。あたしが神楽と行ってどうすんのよ?』

先ほどの玲の言葉がやけに頭の中で繰り返される。



『何に悩んでんのか知らないけどさ、聞きたい事、言いたい事あるなら全部伝えてきなよ。』



うう~…。
もう、それどころじゃないよぉ!


緊張のせいか、手のひらに汗が滲んでるのがわかった。


チラ、っと少し前を歩く神楽くんを覗き見すると
桜井くんから受け取った神社までの地図を、懐中電灯で照らして見ている。


その横顔に、胸がきゅんと掴まれた。


…あぁ、何であたしこんなに好きなんだろう。
神楽くんと居ると、心臓が忙しくて大変だ。