「実はさ、この先の山道に小さな神社があるんだけど、そこに昼間これ、置いて来たんだ。」


桜井くんがテーブルに差し出した

“これ”は、片手で収まる程の小さなクマのぬいぐるみ。


「で、問題はここから。」

ぬいぐるみに向けられていたみんなの視線が、再び桜井くんに持ち上がる。


まるで少年のような笑顔で、桜井くんは人差し指を立てて話し出した。



「これを、男女に分かれてどちらが先に戻ってくるか、時間を計って勝負するって訳。」

「てかお前、昼間いないと思ってたらこんな事しに行ってたのかよ。」

少し呆れたように神楽くんが頬杖をついて言った。


玲も諦めたのか

「で?負けたらどうすんの?」

と、同じように肘を付いて尋ねる。



ダイニングから笑い声が響き、まるであたしたちだけが別の空間にいるみたい。

静かなロッジに、フクロウの鳴き声が不気味な程、近くで聞こえて。



あたしたち、4人の本格的な夏休みがようやく始まろうとしていた。