大きな神楽くんの手が離れ、温もりと感触が残された。
ぎゅっと、心臓が鷲掴みされたように痛む。
「ありがと…。」
聞こえないくらい、小さな声が唇から零れた。
それはやっぱり神楽くんには届いていなかったようで、彼は着々と食器を棚に片付けている。
心配してくれてる神楽くんの気持ちが
本当は嬉しいはずなのに、素直に嬉しい、と思えないのは
あたしの心が醜いから。
あたし、嫉妬してる。
神楽くんの優しさも
あの、笑顔も
甘い言葉も
全てを独り占めにしている、電話越しの彼女に嫉妬してるんだ。
自分の欲深さに、改めて溜め息が出る。
最初はクラスメートってだけでいい、って思ってた。
見てるだけで、それだけで幸せだって。
なのに、どうしてそれ以上を求めてしまうんだろう。
彼女がいる、って
あの日、知ったはずなのに。
友達のままじゃ、いられない。
それじゃ、全然足りないの。
その瞳に、あたしだけを映して欲しい。
あたしを、好きになってもらいたい。
ねぇ、神楽くん。
やっぱり、諦められないよ――…。

