神楽くんの気配がすぐそばに感じる。
それだけで、洗い物に全く集中出来なかった。
何か話さなきゃ。
そう思う度に、頭はどんどんと言葉を失っていく。
それと同時に思い出す、あの日の神楽くんの言葉。
考えたくないのに
早く忘れちゃいたいのに、記憶というのは残酷で。
思い出す毎に、傷は深みを増してあたしの心を占領してゆく。
流れ出る水に、懸命に零れそうな涙を飲み込むと
「菊井、」
すぐ隣から、あたしを呼ぶ声が我に返らせてくれた。
「それ、もう洗わなくていいんじゃない?」
「…え…?」
「十分綺麗だけど。」
神楽くんの目線を追うと、とっくに洗ったはずの食器を再び洗おうとしてる自分に気が付く。
「あ、ご、ごめんね!」
誤魔化すように笑顔を作って、慌ててお皿をトレイに入れる。

