恋 文 日 和



「…ごちそうさまでした。」

立ち上がったあたしは、器を持って台所に向かう。


これ以上、神楽くんと居ると気持ちが溢れてしまいそうだった。

とにかくこの場から逃げたくて。
同じ空間に居れば居るほど、惨めな感情があたしを支配しようとしてくる。


変だな、あたし。
普通、記憶は毎日入れ替わって
色褪せていくはずなのに

何だか、日々色を増していくように感じてしまう。



『バイト終わったら、会いに行くから。な?』

あの時の、優しい神楽くんの声が
記憶に焼き付いて離れない。


このままじゃ
頭がパンクしそうだ。







「何かあった?」

部屋に戻り、お風呂に入る準備をしていたら玲が突然尋ねてきた。


あたしたちは、男女に分かれておばさんが用意してくれた部屋に寝泊まりする事になっていて。

あたしはもちろん、玲と同じ部屋。


お客さんが止まる部屋よりも随分と質素で狭かったが、寝泊まりだけなら十分な広さだった。