恋 文 日 和



「何?ビーフシチュー?」

桜井くんの言葉を追って神楽くんの声も届く。


ドキン、と不意打に高鳴る心臓。


そう言えば、朝一度だけ会話を交わしたけど、それからは神楽くんと話していない。



何だか気まづくて視線をビーフシチューに向けると

「どう?初めてのバイトは。」

カタン、とイスを引いてあたしの目の前に笑顔の神楽くんが座った。



「あ、う、うん、思ってたより大変、かな。」

不自然に目線を逸らして答える。
緊張のせいか、体が強張ってるのがわかった。


無意味にスプーンでビーフシチューを端にかき寄せてみる。


「だよなー、俺も腕パンパン。おばちゃん、こき使いすぎだし。」

「あら、そんなんでへばってるようじゃまだまだねぇ。」

桜井くんのおばさんが笑いながら器に二人のビーフシチューを盛って言う。



神楽くんはすっかりおばさんと仲良くなった様子。

学校でも、神楽くんの周りには自然と人が集まって。
考えてみれば、彼が一人で居る姿なんて見た事ないかもしれない。




きっと、彼は生まれながらに好かれる人なんだろうな。


嫌味じゃない優しさも、さりげない気遣いも、神楽くんは気が付かない所でみんなをちゃんと見てる。


誰もが出来る事じゃない。
だから、みんなから好かれるんだ。