「まぁまぁ!遠い所からわざわざありがとう!ささ、上がって!」

バスを降りて数分
緑に囲まれた山道を上がると、桜井くんをふっくらさせたような愛想のいいおばさんがあたしたちの所へ駆け寄って来た。


それがすぐに桜井くんのお母さんだと理解したあたしは

「こ、こんにちわっ!!」

言って、思い切り頭を下げる。



「日和ちゃん、そんなにかしこまらなくていいから。」

それを聞いた桜井くんが笑いながら言った。




その笑顔が、隣に並ぶおばさんと一緒で優しくて、少しだけ緊張がほぐれたのがわかる。



緑に囲まれた桜井くんの両親が経営するペンションは

見渡す限りに自然が広がって、バイトというよりも
何だか修学旅行に来たような気持ちになった。

空は青く、太陽も眩しいくらいの夏の始まり。




でも、心は晴れない。


「優しそうなおばさんでよかったね。」

「…うん、」

玲の言葉にも、どこかうわの空。



理由は、わかりきってる。



「あっちー!」

汗を滲ませて笑う神楽くんが、視界に揺れて。




ぼやける視界に、ぐっと涙を飲み込んだ。