「ごめんって!」

…あれ?


聞き覚えのある声に、階段を上る足が止まる。
というよりも、まるでその声に吸い寄せられるように、あたしは振り返った。


あっ!!

そこには、ジュースを片手に携帯で話す神楽くんの姿があって。

彼は、自販機の隣にある下駄箱の隅で、困った様子で頭を掻いている。


まだ教室帰ってなかったんだ!

その姿を見かけて、嬉しくなったあたしは神楽くんに向けて大きく手を振ってみた。
つい、顔がニヤけてしまう。




だけど、神楽くんの言葉は
一瞬にして、あたしを奈落の底へ突き落した。



「だから、ただの友達だって!バイトって言っても一週間だけだし。」


え―――……?


顔から、笑顔が消えていく。


そんなあたしに、携帯で話す神楽くんが気付く訳もなくて。


「本当だっての!由芽(ユメ)が思ってるような事なんかないよ。」

振った手は、虚しくゆっくりと降ろされた。




――頭の中で
あの写真が思い浮かぶ。

それは悪魔にも似た、囁きで。




「わかった。バイト終わったら、会いに行くから。な?」

震えた体を抱えたあたしは
力を失くしその場に座り込んでしまった。