何も言えなかった。

否定も、肯定も
今の美咲さんには通用しないと思ったから。


だからこそ閉ざした口元に
美咲さんは、少し間を置いて言った。


「……私、もうすぐ…引っ越すんです。」

「…え?」

止まった涙の隙間から
彼女は小さく呟く。



「…後悔、したくないから。」

弱々しく吐かれた言葉。


だけど、その節々には
強い想いが見え隠れしていて。



「だから、お願いです…。」


ゴーン、と鳴り響いた鐘の音が
どこかから遠く聞こえる。

それは、新しい年の幕開けを知らせる音。






「…それまでは、翔くんの事…。」


だけど、それが
絶望の音に聞こえたのは



「…あたしに、譲って頂けませんか…?」


気のせい、だったのだろうか。