恋 文 日 和



俯く視界に映る、二人の足もとが揺れて見える。


溢れそうな涙をぐっと堪えると

「日和ちゃん、神楽!」

階段下から聞こえた声。



それがすぐに、桜井くんだと理解した二人の視線が、同じ方向に向けられた。


そこには案の定
息を切らした桜井くんが居て。


「何だよ俊介、今大事な話して、」

「日和ちゃん、あいつから何か聞いてる!?」


神楽くんの言葉を遮った桜井くんの問い掛けに

「え…?あいつ、って…。」

上手く回らない思考回路が動き出す。



桜井くんは
未だ乱れた息を整える素振りも見せず

「玲が…、」

と、一言呟いた。


「玲…?」

その切羽詰まった様子に、ただならぬ不安が押し寄せる。



そして、力が抜けたように
ヘナヘナと座り込んだ桜井くんは、頭を抱えながら言った。





「退学届け出したって……。」


遠くで、鐘の音が聞こえる。


それは、まるで
全てを消し去ってしまうように
静かに、耳の奥で鳴っていた。