「リサさん……、」

振り返ると、ちょうどこれから出勤なのか
私服姿のリサさんが、冷たい視線を投げてあたしを見据えてきた。


思わず目線を足元に下げる。


カツン、とヒールが鳴って。

「やっと辞めるの?」


その言葉にゆっくりと顔を上げると
グロスの引かれた口元が、嫌味な程綺麗な弧を描いた。



肩に掛けたバックを、ぎゅっと握り締め

「…今さっきチーフに、言いました。」

呟いて、再び俯く。



「ふうん。」

悲しいのか、悔しいのか
ごちゃまぜになった感情が押し寄せる。


神楽くんの為とは言え、リサさんが望むような結果を選んだんだ。


あたしが辞めたら
この人の思うツボなのはわかってる。

それでも、これでよかったんだ。


これが、正しかったんだ。


脳裏に過ぎる雑念を打ち消すように
心の中で小さく、何度も同じ事を繰り返す。



そうでもしなきゃ
神楽くんへの気持ちですら

リサさんに負けてしまいそうで
怖かった。



それだけは、負けたくないのに。

劣ってないはずなのに。