今朝も魔王は不機嫌だ。


 別段驚くようなことではない。

魔王は基本的に不機嫌なのだ。特に朝は。


 魔王は子どもという生物を、生理的に嫌悪しているようにさえ思う。


 それならば何故、こんな仕事をしているのだろう――という至極真っ当に違いないツッコミを、私は常に喉元の辺りで留めている。


 魔王は教師だ。

三十手前の、ひょろりとしたモヤシ野郎だ。

パーマのせいで髪はあちこち好き勝手に丸まっている。

黒縁眼鏡の奥に隠れた切れ長の一重で、侮蔑の眼差しを惜しみなく注ぐ。

私の属する1年B組――通称「バカクラス」の、担任。


 申し遅れたが、私は木村ひかる という。

JK(女子高生)とかいう部類の仲間入りをして一ヶ月経ったばかりの者である。

何故このように古風な言い回しをするのかと問われるが、偏にこの文体が最もしっくりくるからというだけのことであるから気に留めないで頂きたい。

ちなみに「何故」も「なにゆえ」と読む。


 さて、魔王は騒がしい室内を一瞥すると、直ぐ様舌打ちを一つ。


「黙れ。朝から俺をイライラさせんな」


 近隣の級友と無駄口を叩く彼方此方の声を一瞬にして静まらせた。

やはり、魔王の言葉は絶対である。