「あの、これ落とされましたよ」 私はノートを差し出す。 振り向いたのは男の人で、全身黒い服を着ていた。 「・・・どうも」 短くそう言って、男の人はそのノートを受け取る。 「いえ」 私は笑ってノートから手を放した。 男の人はそれ以上なにも言わずすっと視線を反らすと言ってしまう。 とてもクールで物静かな人だ。 「ももこさん」 しばらく立ちすくんでいると、後ろから呼ばれて振り返る。 そこにはシモンさんが息を切らせて立っていた。 「あ、シモンさん」 「探しましたよ、どこに行っていたんですか」