僕の学校には、対照的な二人がいる。

一人は、『孤高の王子』と呼ばれ、人を寄せ付けない雰囲気を持っている、一匹狼の『南海夏央【みなみなつお】』くん。

もう一人は、みんなから頼りにされ、慕われていて、『天使様』と影で囁かれている、『東山冬哉【ひがしやまとうや】』くん。

この何もかも対照的な二人が、話したことを見た者はいない。

噂では、二人は確か、同じ中学校出身だと聞いてはいるのだが……。


僕の名前は、『北嶋春海【きたじまはるみ】』。

どこにでもいる、フツーの男子高生。

成績は中の下。

まあ、つまりは勉強は苦手ということだ。

でも、スポーツをするのは大好き。

みんなから、『ハル』か、女の子には『ハルちゃん』と呼ばれ、仲良くしてもらっている。

「ハル!」

突然、僕を呼ぶ声をしたほうを向くと、女の子が立っていた。

彼女の名前は、『苑田紅実【そのだくみ】』ちゃん。

紅実ちゃんは、僕の『幼なじみ』で、女の子の中では大の仲良しだ。

何でも話し合える仲でもある。

紅実ちゃんは、俗にいう『美少女』で、男の子から、よくモテる。

だけど、すべて断っているらしい。

なぜだろう?

もしかして、『好きな人』でもいるのだろうか?

でも、それなら、僕に必ず言ってくれるはずなんだけどな。

僕は、そう不思議がる。

あんなに『美少女』だが、僕は、紅実ちゃんに『ときめいた』ことはない。

あまりに近くにいすぎて、お互いに『異性』として、見れなくなってしまっていたのだ。

でも、あまりの僕と紅実ちゃんの仲の良さに、周りの女の子たちからは、『お似合いのカップルね』って、言われてしまった。

(僕と紅実ちゃんとは、そんなんじゃないんだけどな……。)

「ハル、古文の教科書、貸してくれない?」

紅実ちゃんは、そう言った。

僕は、

「いいよ。」

そう言って、机の中から、古文の教科書を取り出すと、紅実ちゃんに手渡した。

「ハル、サンキュ。また、後で返すね。」

紅実ちゃんはそう言うと、さっさと僕のクラスの教室を出て行ってしまった。

(まったく。紅実ちゃん、せわしないんだから……。)

僕は、ひとりごちにそう心の中で呟いた。