「えーっと、野木。お前の席はあの空いてるとこだ」


「わかりました、先生」


先生に丁寧に返すと、あたしの斜め後ろの後ろに座った、野木竜樹。


席へ向かう途中、あたしを見て少し驚いたような、嬉しそうな顔をした。


ほんと、なんなの?


先生の長い話が終わると、転校生はあたしの席へやってきた。


「ねぇ君、結穂でしょ?」


「そ、うだけど…。誰?」


「え?俺のこと忘れたの?竜樹だよ」


「…ごめん、全く……覚えてない」


「………そう、か。…だよね、無理もないよ」


「…なんか、ごめん」


自分でもなぜ謝ってるのかわからなかった。


でも、傷ついたような彼の表情に、なぜか謝ってしまっていた。


彼は、あたしにとって何だったのか。


どうしてだろう、彼を忘れてはいけなかったような気がする。