「竜樹、どうしたの?」


「え?……何が?」


「何かあったの?」


「…はは。結穂には敵わないよ」



あたしがこんな事言うのにも、訳がある。



竜樹はいつも、何かあると必ずあたしを抱き締める。



それも、余裕のなさそうに。



「で?何があったの」


「……結構前にさ、結穂が俺にストラップくれたじゃん」


「あー…映画行った時?」


「うん。そのストラップが壊れちゃったらしくて、どっかで落としちゃったんだ……」


「なんだ。そんな事?」



ストラップなんて、いつでも買えるじゃん。


たったこれだけの事でここまで落ちこんでくれるなんて、
あたしはつくづく良い彼氏を持ったと思う。



「なんだってなんだよ……俺だって悩んだのに」


「だって、ストラップはいつでも買えるでしょ?今度また買いに行こうよ」


「うん、だね」



そして竜樹は嬉しそうに微笑んだ。






「じゃあ、おやすみ!」


その後ずっと喋っていたら、いつの間にか深夜になっていた。


「うん、おやすみ、結穂」



竜樹はそう言うと、あたしに軽くキスをしてから微笑んで布団に潜った。


…『竜樹の笑顔をずっと見てたいな』あたしはそんな事を考えながら、
ゆっくりと眠りの世界に堕ちていった。