私、佐々木雪には私と双子の兄がいる。


声を大にして自慢したい程、優れた兄だ。


頭が良くて、優しくて、細かなことにも気を使えて、動物にも好かれて、皆をまとめる力もある。

一卵性だから似る筈なのに、私とは正反対だ。


私の一日は、そんな兄さんの笑顔から始まる。



ーーピピピピピピピ。

目覚ましの電子音が脳を揺らす。

「……くあ」

耐えかねて目を開けると、笑顔の兄さんが飛び込んできた。


「おはよう、雪」

兄さんは、私のクセのついた前髪をゆっくりととかしながら微笑んだ。

朝から兄さんのとろけそうな笑顔を見れる私は幸福者だ、と常々想う。


「おはようございます、兄さん」


きゅうっと兄さんの胸に頭を埋めた。

耳元で聞こえてくる穏やかな兄さんの心臓の音が心地よい。

ああ、これがないと一日が始まった気がしない。


「寝てて良いよ。今日の晩御飯は僕が作るから」


兄さんはベッドから降りると私の頬にキスをした。

「はい、ありがとうございます」

「良い子にしてるんだよ」


くしゃくしゃって頭を撫でると兄さんは、ゆるーく口角を上げた。

アレがなくなってから兄さんは笑顔が増えた気がする。

良かった、アレを捨てておいて。


兄さんの笑顔が私の生きる糧になるんだもの。


良い子にしてて、という掟を破って、私は布団を抜け出した。

少しでも兄さんと離れると、死んでしまいそうな気持ちになるのだから。


物音を立てないようにして、階段を降りる。

うるさくしたら怒られちゃうから……って思ったけど、怒るあの人達はいないんだった。


リビングの陰から覗くと、兄さんがフライパンを回している姿が見えた。

兄さんは何を持ってもさまになる。


兄さんが持つもの全てが、兄さんのために存在しているって……そんな感じ。


「良い子ちゃん。陰で見てないで出ておいで」

「気付いてたんですかー?」


兄さんは凄いんだ。

私がどんなに気配を消してても分かってしまう。

エスパーなのかもしれない……。


「そりゃ気付くよ。雪は分かりやすいからね」

「兄さんが凄いんですっ」

兄さんの背中に抱きついて、すりすりと頬を寄せた。


「こらこら、火傷するかもしれないよ」

「その火傷を見るたびに兄さんが思い出されるのなら本望です」


瞬間、兄さんの動きが止まった。