沈黙。

夏のけだるい夜の空気が、流れないで滞っている。

逃げたい。


「そうだと思ってたよ」


暗闇を光太郎の声が優しく響いた。


「え..」


「渚が俺を見てないって、わかってた。」
優しく、悲しみを帯びた声。


「でも...それでも、いつか俺を見てくれればそれでいいって思ったんだよ...」


「ごめん...」


それしか言葉が出なかった。


「こっちこそごめんな..。
渚の優しさにつけこんで...
一緒にいれば好きになってもらえる自信あったんだけどなー!!」


いたずらな顔で、悲しみを隠して笑う。


「光太郎のことはっ..
大好きだよ、大好きだけど...彼氏としてじゃなかった...」


「こんないい男いないよ??」


「わかってる...」


最後まで光太郎は優しい。
こんなあたしを責めない。

あたしはばかだ。

拓海くんの何が、この人より勝っているというんだろう?