好きの代わりにサヨナラを《完》

ついにクライマックスの撮影が始まる。

青い海が見える綺麗な公園。

映画では春の設定になってるけど、実際は真冬。
海風がめちゃくちゃ冷たい。

制服の衣装の上に、スタッフさんが用意してくれたコートを羽織ってあたしは撮影に使われる犬と戯れていた。

こうしてじゃれていると普通の犬だけど、ある意味プロの役者犬だ。

カメラが回ると、あたしより演技が上手い。



「おいで」

あたしはしゃがみ込んで、小さな犬に手を伸ばした。
シッポを振って走ってきた人懐っこい犬を抱き上げて、制服のスカートの上に乗せた。

犬のふわふわした感触に癒される。

こうしていないと、あたしは緊張で押し潰されそうだった。



次のシーンでは、一ノ瀬恭平に今まで伝えられなかった想いを告白して二人は初めてのキスをする。

あたしは、まだ迷っていた。