好きの代わりにサヨナラを《完》

いつもは使っていない応接間の電気がついている。

あたしの気配に気づいたのか、中から母がドアを開けた。



「ほのか、お客さんよ」

「あたしに……?」

こんな時間に誰だろう。

応接間の中をのぞくと、マネージャーと事務所の社長が並んで座っていた。

社長は業界人らしくゴルフにでも行くようなラフな格好をしていることが多いけど、今日は二人ともきっちりスーツを着ていた。



「お疲れさまです……」

こういう場合、なんて挨拶したらいいんだろう。

とっさに言葉が出て来なくて、仕事もしていないのに謎な挨拶をしてしまった。



あたしの声に、社長が顔を上げる。

うちの社長は温厚なおじさんで、いつも穏やかな社長スマイルを浮かべている。

本人はあたしに向かっていつもと同じ社長スマイルを作っているつもりで口角を上げたけど、その目は全く笑っていなかった。