好きの代わりにサヨナラを《完》

母からの着信だった。

「ほのか、こんな時間まで何やってるの?すぐ帰ってきなさい」

何もやましいことはしていないと言い切れないあたしは、どこで何をしていたのか説明せずに「すぐ帰る」とだけ返事して電話を切った。



あたしは、まだ動揺がおさまらない。

そこまで急ぐ必要もないのに、あたしはスマホを握って走り続けていた。



自分の家につくと、大きく深呼吸して息を整える。

まだ顔がほてっている感じがして、あたしは手のひらを頬に当てた。

玄関に入ると、見慣れない男物の靴が二足きっちり揃えて並べられている。

誰かお客さんだろうか。

いつもなら大きな声で言うけど、今日は小さな声で「ただいま」とつぶやいて靴を脱いだ。