好きの代わりにサヨナラを《完》

「俺は、お前を行かせたくない」

蒼の真剣な瞳に、あたしは言葉がでなかった。

蒼はそう言って、大きな両手であたしを抱きしめた。



蒼がこんなことするなんて思ってなかった。

動揺したあたしは胸の前でギュっとスマホを握りしめる。



蒼の大きな胸にぴったりくっつけられたあたしの耳から、彼の心臓の音が聞こえてくる。

恐る恐る顔を上げると、蒼もまっすぐあたしを見下ろした。



蒼の顔が近づいてくる。

彼とならどうなっても構わない。

あたしはゆっくり目を閉じた。



唇が触れそうになった瞬間、あたしの手の中のスマホがけたたましく鳴った。

あたしは驚いて、スマホを床に落としてしまった。

彼に流されそうになっていたあたしが、ハッと我に返る。



「ごめん……帰るね」

あたしはスマホを床から拾い上げると、彼の顔を見ることなく部屋を飛び出した。