好きの代わりにサヨナラを《完》

結局、母と一緒に新幹線で帰ってきてしまった。

実家に帰るのは、上京してから初めてだ。

あたしの部屋は、あたしが住んでいた頃のままにしてあった。

母が掃除してくれていたのか、当時使っていたものは綺麗に整頓されていた。



あたしの実家はそんなに新しくなくて、オシャレなリビングはない。

昔ながらの台所から母が料理する音が聞こえる。

この感じが懐かしくて、あたしはスマホを持ってまだ夕食ができあがっていない食卓テーブルについた。

あたしが椅子に座る音に気づいたのか、母は料理の手を止めることなくあたしに背を向けたまま言った。



「夕飯は、お鍋でいい?」

「うん……」

あたしに聞かなくても、もうメニューは決まっている癖に……

包丁を持った母は白菜を刻んでいて、テーブルの上には土鍋が置いてある。

そんなところが母らしいなと思って、一人で笑ってしまった。