好きの代わりにサヨナラを《完》

髪は寝癖がついたままだし、こんな格好で出てきてよかったんだろうか。

あたしは髪をなでつけながら、一階のロビーをのぞく。



「お母さん……」

ロビーのソファに座っていたのは、あたしの母親だった。

東京に来るのに気合いを入れたのか、母にしては珍しくちゃんとしたスカートをはいていた。



「久しぶり、ほのか」

オーディションに受かってから、母に会うのは初めてだ。

思わぬ再会に、あたしはスマホを持ったままロビーの隅で立ち止まってしまった。



「ほのか、元気だった?」

「うん……」

母は、あたしがアイドルになることに反対していた。

契約直前まで事務所の人と口論していて、あたしが無理矢理家を出る形になってしまった。

「あんたなんかアイドルになれる訳ないでしょ」と言っていた母を見返したくて、もっと立派なアイドルになってから実家に帰るつもりだった。

中途半端なアイドルにしかなれなかった自分が情けなくて、あたしはうつむきがちに母の向かいに座った。