好きの代わりにサヨナラを《完》

「センターで目障りなんだよ。さっさと辞めろ」

まだ曲がかかっていない会場で、怒りに満ちた声ははっきりあたしの耳に届いた。

あたしはうつむいて、軽く唇を噛んだ。

ポーズを決めるあたしの指先は微かに震えていた。



会場にイントロが流れ始める。

頭は真っ白だったけど、動きは体が覚えていた。

流れる音楽に反応して、体が勝手に踊っている感じだった。



デビュー曲は、恋に落ちる瞬間を描いている。

彼への想いに気づいた女の子が、彼のことが大好きだと叫びたくなる。

まっすぐな恋心を歌った爽やかな曲だった。



純粋過ぎる歌詞が、今のあたしには辛かった。

あたしはどうしてもっと早く蒼の気持ちに気づかなかったんだろう。

あたしはうつむいたまま、音楽に合わせて淡々と体を動かしていた。