焦れ甘な恋が始まりました

 


精一杯平静を装いながら振った話題には、なんの脈略も意図もなく。


ただ単に、自分の想いを誤魔化す為だけに投げた、質問だった。


けれど社長は、そんな私の考えに気付いていたとしても決して触れることはなく。


たった今私が投げた質問の答えを、迅速かつ丁寧に、隠すことなく答えてくれた。



「……実は最近、新規事業に少し目を向けていて」


「新規事業ですか?」


「うん。ほら、うちは会長の代から温浴施設や旅館、ホテル経営に力を入れてるだろ。だけどこれからは、それだけじゃ会社が取り残されていってしまう。それで、新しいハコ(施設)のコンセプトを企画部と練っていて……」



自分のお父さんのことを、敢えて会長と呼ぶのは、社長が仕事では親子であるということに甘んじず、しっかりと一線を引いているからだろう。


そんなことさえ、当たり前のようにしている社長はやっぱり、一企業を纏める企業の顔なのだ。