そんな、思いもよらない提案を口にした社長は赤信号で止まると、助手席に座る私を見て柔らかに微笑んだ。
その笑顔と綺麗なブラウンの瞳に見つめられたら、もう、いっそのこと……このまま流されてしまってもいいかもしれない、なんて。
良い年して今更夢見る乙女でもあるまいし、今日はこのまま流れに身を任せてみるのも良いのかもしれないなんて、そんな風に思えてきて。
「……はい。私も夜の海、行ってみたいです」
「じゃあ、決まり。とりあえず、このまままずは……うーん、どっかのドライブスルーで軽食をテイクアウトしてから、向かおうか」
右折予定で出していたウインカーを消し、直進に進路を変えた車は青信号と共に再び走りだす。
高いビルの群れを抜け、辺りの景色が都会の喧騒を抜け出した頃には、ほんの少し開けた窓から流れ込んできた潮の香り。
その香りに年甲斐もなく胸を踊らせながら、私は社長の運転する車の揺れに静かに身を任せた。



