焦れ甘な恋が始まりました

 



『それでさ、例の件なんだけど。今日辺りなんて、どうかなぁと思って』



だけど、そんな私の思いを知る由もなく。

予想以上に強引な社長は、自分の要件のみ私へと伝えるつもりらしい。


それにしても社長が言う、“例の件”って。

私の考えが間違っていなければ、3日前の火曜日に、私が社長室で言われた提案のことだろう。


提案って言っても、あれは完全に社長命令に近かった気がするけれど。


悪い言い方をすれば、パワハラだ。



『日下部さん?聞こえてる?』



――――あのあと、社長からの提案を受けた私は、昼休み終了の時刻と共に半ば呆然としたまま社長室を後にした。


社長室を出る間際、社長から「また連絡するね」なんて、そんな嘘みたいな言葉を渡されて。


……まさか、ホントに連絡なんてくるはずないよね。今のは全部、社長の悪い冗談だ。


そして、その考えを肯定するかの如く火曜日から今日まで一度も、社長から連絡が来ることはなかったのだ。