「ええと、狩野くん?これは、なんの電話かな。私、今ちょっと出先なんだけど」
『そーいえばー、日下部さん聞きましたぁ?』
いやいや、狩野くん。
全然、話が通じてないからね。ホント、酔っ払い。
「狩野くん、あのね、今ちょっと……」
『例のオープン日が重なった競合施設、オープンからのこの三連休、かなりヤバかったらしいですよー』
「え、」
だけど、早めに切り上げようと思ったら、思いもよらない話題が飛び出したせいで、切るに切れなくなってしまった。
それは隣に座る小出ちゃんの耳にも届いたらしく、小出ちゃんも私と同じように携帯に耳を寄せながら、狩野くんの声を拾おうと黙りこむ。
『なんかぁ、オープン日を大幅に早めたせいで、サービスの連携が全然取れてなかったらしくって。なんでも、レストランじゃビール頼んでから30分出てこないのが普通だったみたいだし、露天風呂ではタオル切らしたりで大変だったって。それ以外のサービスも酷くて、お客さんから苦情の嵐だったらしいです』
「……そうなんだ」
『Twitterとかの反応見ても、行ったお客さんが初日から文句ばっかツイートしてた感じだから、密かに気になってはいたんですけどね』
「……そっか、」
狩野くんの言葉に、そう答えるのが精一杯だった。
相手は同業者として、今日までお互いを讃え合いながら第一線を走ってきた会社。
それが今回、向こうの勝手な事情で不本意にもぶつかり合う羽目になってしまって、本来なら同情する余地なんてないのだけれど。
だとしても……今の狩野くんの話を聞いて「ざまあみろ」だとか、そんな気持ちには到底なれなくて。
『現真野社長も、これで社長職から弾かれるかもしれないなんて話も出てるらしいです』
寧ろ、なんだかとても……切ない気持ちになってしまった。



