焦れ甘な恋が始まりました

 


「……日下部さんのクライアントレシピ、現物、初めて見た」



ぽつり、と。

狩野くんが零した言葉に、後ろに立つ立石さんも「私も初めて拝見致しました」と、穏やかに微笑みながら頷いてみせる。


クライアントレシピって……本当に、社内の人たちに浸透してたんだ……



「……このノートの中にいらっしゃるクライアントさんや関係各社の皆さん全員に、VENUSオープンへのご招待のお声がけをしましょう」


「それは、どういう方法で?」


「メールでVENUSの概要等をお送りした後に、手書きの挨拶状を付けた正式なプレスを送付します」


「手書きの挨拶状!?それ、何百あるんですか!?書いてる時間ないでしょ!?」


「挨拶状は……私を含めた総務部が、お引き受けします」


「え、」


「相手の方の顔を思い浮かべながら、一枚一枚心を込めて丁寧に書くこと。私たち総務部は、いつも挨拶状を書く時には必ず、この決まりだけは守ってきました。……だてに、会社の便利屋さんをやってるわけじゃありません。会社の便利屋さんには、便利屋さんなりのプライドがあるんです」