焦れ甘な恋が始まりました

 


「……それで?日下部さんの意見を、聞かせてもらえる?」



言いながら、社長はとても挑発的かつ、魅惑的に笑う。


その笑みに強く拳を握ると、乱れた呼吸をなんとか整え、私は社長の挑発に負けないくらいに精一杯の笑みを見せると、力強く言葉を紡いだ。



「――――我が社に関わるクライアント様や関係各社の情報量なら、絶対に負けません」



営業部に関わるお客様の把握をするということは、即ち、この会社に関わるほぼ全ての外部企業の情報を把握しているのと同じ。


更に、このクライアントレシピには、会社が創業した当時からお付き合いのある企業の情報も――――いつか、何かの役に立つかもしれないと、以前の上司、総務部長、営業部長から聞いた話も事細かに記してある。


私はこの7年、営業部や総務部の話し合いの合間に気が付いたこと、電話で聞いた情報や会社に訪問されたお客様のことを、時間があれば事細かに記して、このノートに残していた。


四角の擦れたノートには頂いた名刺、私が直接頂かなかった名刺は名刺を借りてコピーを取って貼り、忘れないようにと相手の特徴も細かに書き込んだ。


――――これだけは。

これだけは、THE・平凡OLな私にも出来ることだと思って7年間、コツコツと作り続けてきた……私の。


“ 会社の便利屋さん ” を貫いた、総務部勤務の私が――――唯一胸を張っていられる、プライドだ。