焦れ甘な恋が始まりました

 


「……っ、はっ、はぁ」



切れる息。

会社の廊下を、こんな風に全力疾走する日が来るだなんて思ったこともなかった。


それでも今、私は真っ直ぐに……数冊のノートを握り締め、社長室へと向かっている。



――――「うちの会社の殆どのクライアントの状況や現状を、営業どころか会社の誰よりも幅広く把握して、些細なことも零さないようにノートにまとめて知識にしてる」



きっと、数年前。

会社に入社した当時の私は、こうなることなど少しも想像していなかっただろう。


だけど、その数年前の私が。

7年という月日の中で何度も自分の存在価値に悩み、挫折しそうになりながらも……それでも何かの役に立てればという思いで綴ってきたそれが今、この会社の分岐点で必要とされるかもしれない。



――――「日下部さんの、そのノート、営業部では “ クライアントレシピ ” って呼ばれてるの、知ってる?」



クライアントレシピ。

私の知らぬ間に、そんな名前の付いたノートを持って、私は社長室の扉を勢い良く開けた。



「お待たせして……っ、申し訳ありませんっ」



そのまま真っ直ぐに社長の前まで歩を進めて足を止め、それを社長に差し出せば、社長が私とそれを交互に見てからゆっくりと口を開く。