「まず……向こうにオープン延期を申し入れる権利を、こちらは持ち合わせていません。今までは、“ 暗黙の了解 ” 的に守られてきたルールかもしれませんが、それはお互いの良心で成り立っていた口約束のようなものです」
「でも……っ、」
「向こうにオープンの延期を申し入れたら、“ 何故こちらが譲らなければならないのか ” 、“ そちらが日程をズラせばいいだろう ” と言われて、先程も言った通り、関係が悪化する可能性があります」
「っ、」
私の言葉に、眉をひそめた狩野くん。
それに気付きながらも触れることはせず、再びゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そして……ウチにプレスが送られてきているということは、すでに関係各社に配布されている可能性が高いです。これは、真野会長が指揮していた頃からそうですし、ウチにも言えることですが……同業者という分類の会社にプレスを配布するのは、最後の最後なことが多いですから」
新施設や新事業の案内をクライアント各社やマスコミ各社に送る際、プレスと一緒に案内状をつけて送付することが基本だ。
一番気を付けることは、とにかく相手に失礼のないようにすること。
昔からお世話になっているクライアントさんから順に、メールだけでなく、時には手書きのご挨拶状と共にプレスをお送りすること。必要であれば電話でのご挨拶も忘れずに。
これは―――今はもう退職された入社当時の上司に、しっかりと叩き込まれたことだった。
その中でも同業者、つまり……競合相手への送付は一番最後。
全ての準備が整ってから、少しの隙も見せないよう余裕を持ってご招待するのが、ライバルを堂々と自分たちのテリトリーに招き入れる場合の基本なのだと教わった。



