焦れ甘な恋が始まりました

 


「……どういうことですか、社長」



社長の突然の言葉に、すぐに困惑を滲ませた声を出したのは狩野くんだったけれど、それは私と立石さんも同じ気持ちだった。


けれど、そんな私たちの気持ちを尻目に、下條社長は思いもよらない言葉を紡ぐ。



「俺が今話した、今回の日程の重なりが真野社長の独断であることを教えてくれたのは、真野会長だ。
その理由も……先程俺に電話で、丁寧な謝罪と共に全て説明してくれた」


「真野会長が……?」


「ああ。……全く、自分は入院中だってのに……ウチの親父同様、ホント、昔から仕事が絡むと無茶が過ぎる人だ」



ふわり、と。

まるで温かな風が吹いたような声色でそう言った下條社長は、戸惑いに顔を染めた立石さんを見て相好を崩した。



「まぁ、そんな二人だからこそ……今日まで、温浴業界のトップを張ってこれたんだろうし、俺は二人のことを心から尊敬してる」



下條社長の顔に、笑顔の花が咲く。

……たった、それだけで。

今の今まで重苦しく沈んでいた空気が浮上して、向かい風だった事態の風向きが変わった気さえした。