つい感情に任せて口を滑らせた狩野くんを諌める(いさめる)ように声をかけたのは下條社長。
そして……そんな狩野くんを見て、とても静かに、けれど声を重くしながら言葉を紡いだのは立石さんだった。
「……あちらの施設のオープンは、VENUSのオープンの翌月だと聞いていたんです。少なくとも、それは真野会長が話していたので、オープン日程が重なったことは真野会長の意思ではないと思われます」
「……なんで、立石さんがそんなこと」
「真野会長と下條会長の会食には、私も下條会長のご厚意で同席させて頂くことが何度かございました。真野会長は……下條会長同様に、とても聡明で慈悲深く、経営者としても立派な方です。真野会長の名誉を汚さないためにも、今回のことは真野会長のご意思ではないということだけは言わせてください」
言い終えると、「余計なことを言ってしまい、申し訳ありません」と頭を下げた立石さんを、下條社長は何も言わずに見つめていた。
下條社長につく前は、下條会長についていた立石さん。そんな立石さんも今……悔しくて堪らないんだろう。
きっと今まで、二つの会社の在り方、そしてライバルでありながらも互いを尊敬し高め合う関係だった両社が今、大きな分岐点に立たされていることも……不本意に思えて仕方がないと。
「……大丈夫。全部わかってるよ」
「え……?」
「真野会長が、どんな人であるかも……向こうが今、何を考えているかも」



