焦れ甘な恋が始まりました

 


案の定、フンッ!と鼻を鳴らして不満を顔に滲ませた小出ちゃんを前に、狩野くんが「そ、そういう意味じゃないよ……!」と、オロオロし始めた。


……なんというか。

あと1ヶ月半後には、こんな二人の可愛いやり取りも見れなくなってしまうかと思うと……小出ちゃんの寿退社と同時にまた一つ、寂しく感じてしまうことが増えたかも。



「日下部さーん!フォローお願いしますよー!俺、ホント全然そういうつもりじゃなくて!」


「あはは」


「何を言われても、日下部さんはあげませんからね。日下部さんには、私が一番お世話になった上司として……絶対、結婚式に来てもらいたいですもん」


「そ、それはもちろん!だからホント、そういうつもりで言ったんじゃなくてさぁ……ホント、言葉の綾っていうか、なんていうか……」


「……もういいです。まぁ……そういうわけで、私は、そのVENUSのオープン初日のマスコミ対応が、最後の仕事になります。二日目は流石に、結婚式前日で準備もありますし、有給を頂いているので」



けれど、再び話題をVENUSへと滑らせた小出ちゃんに。狩野くんが今度こそ、ピシッ!と音でも鳴る勢いで身体を強張らせた。


その反応に思わず小出ちゃんと二人で首を傾げれば、これまた今更なことを狩野くんが口にする。



「え!?小出さん、寿退社するの!?」


「……それ、今更ですか。随分前に、その話もしましたけど」


「い、いや、結婚するのは覚えてたけど、まさか寿退社とは……って、ゴホンゴホン!お、覚えてる。お、覚えてました。そうそう、そういえば寿退社するって言ってたよね……!あ、改めて、結婚おめでとう!」


「どういたしまして。そういうわけで…………私だって一応、VENUSのオープンには人一倍思い入れがありますよ」


「小出ちゃん……」


「大学卒業からずっとお世話になっていた会社の、かけがえのない大きな一歩ですから。心から、上手くいけばいいなと思ってます」