焦れ甘な恋が始まりました

 


「……でも、やっと、VENUSのことを世間にPRできるんだから、興奮せずにはいられないんだよ……!日下部さんと話し合いながら固まったプランの準備も、社長から了承が取れて既に動き始めてるし!」


「その気持ちはわかりますけど……同じ気持ちであろう日下部さんは、狩野さんみたいに騒いでませんよ。大人なんですから、喜ぶならもっと静かに喜んでください」


「う……っ、」



再びピシャリ、と狩野くんをやっつけた小出ちゃんは、「お願いしますね」と、留めの一言を吐いてパソコンへと向き直った。


その後ろでガクリと肩を落としている27歳、独身男性、彼女無しの狩野くんを見て、再び溢れる苦笑い。



「狩野くんの気持ちも、わかるよ?私も、すごくワクワクしてるから。確か、明々後日が宣伝物関連の入稿日だよね?印刷上がったものから随時世間に出回るかと思うと、もういよいよオープンも目前に感じるし、世間の反応も気になるもんね」



言いながら、「食べる?」と手のひらサイズのチョコレートを差し出せば、狩野くんの目が再び輝きを取り戻した。


……頑張れ、27歳独身男性、彼女無し、好きな食べ物はチョコレート。



「もう、本当に楽しみで仕方ないんですよ。……VENUSは、俺が初めて主導で任された仕事だし、少しの妥協もなく世に出したいんです」



手の中に収まった甘いチョコレートを握り締めながら強く言葉を紡ぐ狩野くんに、同意するように頷けば、狩野くんは「いただきます」と、チョコレートを口の中に放り込む。


……これは、社長から企画部のフォローを頼まれて、それを了承したあとから知ったことなのだけれど――――企画部の狩野くんは入社当時、期待の新人として持て囃されていたらしい。


狩野くん自身も入社した頃からモチベーションが高く、結構な自信家で有名だったとか。


けれど、どんなに大学時代、成績優秀だったと評されていたとしても。


一歩社会に出れば、学生時代とは違い経験が物を言う時もあるし、一つ一つの仕事に責任という、とても大きく重いプレッシャーがのし掛かる。


そんなプレッシャーに、入社間も無い狩野くんは押し潰されて……一度、大きなミスをしてしまったのだとか。