焦れ甘な恋が始まりました

 


……だと、しても。

例えそうだとしても、それは今、持ち出すものではない。


今一番何が重要かといえば、VENUSのオープンに向けて社員全員が一体となって全力で取り組むことだと思うから。



「……私だったら、本格的な会席料理を食べれるのも、嬉しいですよ」


「え?」


「滅多に食べれないものを食べれるのって、それだけで嬉しいですし……幸せな気持ちになれますから。だから、狩野さんの提案は素敵だな、と思いました」


「……っ、」



狩野くんの企画の意図。

おもてなしの心を持つ日本人の気持ちを持って接客することが、VENUSに訪れるお客様の幸せに繋がる――――と、拾い上げた企画書には書いてあった。


だからこそ、狩野くんは会席料理を第一弾の期間限定メニューに選んだんだろう。


日本人らしいサービスを追求するという意味でも、その思いは企画の素人の私にも容易に飲み込むことが出来たし、和食はヘルシーな分、女の人の受けもいいだろう。



「会席料理、とてもいいと思います」



言いながら微笑めば、今度こそ狩野くんの顔が、くしゃりと歪んだ。


もちろん、プライドを持って仕事をすることは大切だけど、それは臨機応変に。頼る時は周りを頼って、一度自分の頭の中を整理してみることも大事だ。


凝り固まった思考をほぐして視野を広げたら、自ずと答えが見えてくることもあるはずだから。