焦れ甘な恋が始まりました

 


「、」



手に持ちながら目を通していた企画書をテーブルの上に置き、真っ直ぐに狩野くんを見据える下條社長の目は言葉と同様に厳しかった。


狩野くんはそんな社長を前に、返す言葉を無くしたように押し黙ってしまって、部屋の中には重苦しい空気が流れる。


そんな空気を取り繕う様子もなく、再び静かに口を開いた社長は、パラパラと企画書のページを指でなぞると小さく息を吐いた。



「それと……マグロの解体ショーだけど。それは、誰が喜ぶと思って企画したんだ?」


「ターゲットである、女性が……そういう、大胆なパフォーマンスをすることで集客率の向上を狙っていこうかと……」


「つまり、マグロの解体ショーをやるので、女性の皆さん、新施設オープンに是非来てください、と?そもそも、マグロの解体ショーを目的にターゲットである女性の層を集めようとしているのなら、それは目の付け所が違うんじゃないか。
それに……俺だったら、それ目的なら、築地や魚市場のイベントに行った方が楽しめると思うけど」


「、」


「それと、本格的な会席料理だが……この企画書を見る限り、コストパフォーマンス的にはどうなんだ。メニューを見ると、コース料理は8000円からになってるし、この値段を出すなら、解体ショーと同じで老舗の日本料理店に行った方がいいと思われるんじゃないか」



社長がそこまで言えば、隣に座る狩野くんがあからさまに肩を落としたのがわかった。


それに重ねるように、「……ふぅ」と、長く息を吐いた社長も、力なくソファーの背もたれへと身体を預ける。



「……悪い提案ではないし、お前なりに考えた上で出た企画なのもわかってる。だけど、半額券やマグロの解体ショー、会席料理といった、安易なものに逃げた印象になっているのも確かだ。大事なのは、もっとお客様の目線に立って、考えることだろう。
何より、“ VENUSらしいサービス ” を、どう提供するか。自分なら何を求めてVENUSに来るのか……もう一度、整理してみたらどうだ」