焦れ甘な恋が始まりました

 


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「――――と、いうわけで。VENUSのオープニング企画の目玉にマグロの解体ショー、それと、第一弾の期間限定メニューは、やはり和食の本格的な会席料理でいくのが良いのではないかと思いまして」



社長室で、先程から淡々と話しているのは企画部の狩野くんで、社長は彼の話しに静かに耳を傾けていた。


――――あれから。

散々社長にからかわれたせいで乱れた思考を何とか正常まで引き戻した私は、当たり前に社長室から出ようとしたのだけれど。


「慌てて出て行くと逆に不自然だから、ソファーで資料が出来上がるのを待ってる体(てい)にして。総務部には、日下部さんは戻るのが少し遅れることを俺から言っておく」


……と、社長に言及されて、結局その通り、今の状況が出来上がった。


革張りの高級ソファー。

手元には営業部宛の書類を持ち、企画部の狩野くんの隣に座って正面に座す社長と狩野くんのやり取りに、一緒になって耳を傾けている。


社長室に入ってきた瞬間こそ一瞬驚いたような顔をした狩野くんだったけど、私が「総務部の日下部です」と挨拶をすれば、「総務部の日下部さん、知ってます」と、人懐っこい笑顔を向けられた。