焦れ甘な恋が始まりました

 


「……こんなの、いいんですか本当に?」



業務命令が渡されてから直ぐに社長室に呼ばれた私が、社長にそう尋ねれば。



「日下部さんは、そういうところは察しが良くて助かるよ」


「それは……このタイミングで、総務部の私が御用聞きなんて仕事を頼まれることに、違和感を感じたので……」


「別に、本当にお願いしたい仕事があって、それを総務部で一番信頼も厚くて、仕事も確実な日下部さんに頼んだだけだから、なんの違和感もない」



「実際、社内で違和感を抱いてる人間はいないだろ?」と。シレッと言われて小さな罪悪感は吹き飛んだ。


そして、それを境に……

この御用聞きを利用して、私が契約を結んだ件―――― “ 社長に手料理を作る ” という仕事も、とてもスムーズに行えるようになったのだ。


……と、いうか。

この業務命令はそもそも、そっちがメインであろうことは察しがついていて。


私が……社長に料理を渡すために頻繁に社長室へ訪れることを、他の社員に疑われないよう、堂々と偽装する為だったのだろうと思う。


だからこそ私は、社長のその意図に気が付いて迷うことなく二つ返事でこの仕事を引き受けた。


もちろん、結局それがなくても御用聞きとして指名されたら、大切な仕事を任されたのだと、引き受けていたとは思うけど。


私の知る限りでは、下條社長はそんな風に公私混同に走るような人ではなかったから……


なんとなく。

そこまでして私の手料理を食べたいのかな……なんて思ったら、それは惚れた弱みで胸がキュンとしてしまったのは、ここだけの話。