焦れ甘な恋が始まりました

 


「そもそも……いつからいたの。っていうか、いたならいたで、声を掛けてくれたらいいのに」


「失礼しますと声を掛けてノックをしてから、入ってきましたよ?でも、資料に釘付けでしたので、極力邪魔にならないように……と、思ったんですが、保冷バックの中身の話は毎回持ってきた時にするように、社長から予め言われていたので、一応表面上だけでもお話だけしておこうかと」


「……邪魔だなんて思うわけないって、知ってるだろ?と、いうか。えぇと……ゴホン。今日も、ありがとう。いつも助かるよ、日下部さん」


「いえ……私は、今は、社長の御用聞きですから」



言いながら、再びクスリと笑みを零せば社長も漸く柔らかな笑顔を見せた。


“ 社長の御用聞き ”

それはまるで、小学生の委員会に似たような響きで、一見くだらないことのように思えるけれど。


新施設オープンの正式発表と共に――――総務部長を通して私に渡された、業務命令だった。



――――「下條社長と営業部の間で必要事項の確認漏れがないように、定期的に “ 御用聞き ” として日下部さんを寄越すように、秘書の立石くんから言われてね。日下部さんも通常業務諸々で忙しいとは思うが、引き受けてくれるかな?」



困ったように言う総務部長は、本当に私の抱える仕事が増えてしまうことを心配してくれていたんだと思う。


だけど私は……総務部長にその話をされた時。

立石さんからの、その “ 業務命令 ” が、下條社長によるものだと、直ぐに……なんとなく気が付いて。


少しも迷うことなく、その仕事を引き受けた。