「食事だけじゃない。家から出て、ある程度一般の感覚を手に入れるのには時間が掛かったし、正直苦労もした。親父は俺に会社を継がせるつもりで厳しくもあったけど……それでも自分は、随分甘やかされていたんだって外に出て思い知った」
会長の、一人息子であるからこそ。
住んできた世界が違う分、価値観も違えば感覚だって違う。
だけど下條さんは敢えて自分から、外の世界を知ろう、感じたいと思って飛び込んだんだ。
それがどれだけ大変なことなのかも、私にはわからない。
だけど下條さんには、今日まで計り知れないほどの苦労と重圧が、その肩にのしかかっていたのだろうということだけは、わかる。
「昔は、いつか親父のようになりたいと思ってた。でも……今は、あの親父を超えなきゃ俺には何も残らないと思ってる。大き過ぎる背中が、今は正直鬱陶しかったり……なんて、罰当たりだけど」
苦笑いを零す社長を前に、私は少しも表情を緩めることができなかった。
だって、私なら、その重みに耐えられるだろうか。
現実に、立ち向かうことができる?
……ううん、そんなの、答えは決まってる。
私だったらきっと、その重みに耐えられず、逃げ出してしまうに違いない。



