「……総務部長と立石から、聞いているよ。わざわざ、ありがとう」
部屋の中には、相変わらずスマートにスーツを着こなした下條社長だけが佇んでいた。
デスクに浅く腰を掛け、長い足を軽くクロスさせながら腕を組み、静かにこちらを見据えていた社長は、私を見るなりゆっくりと歩み寄ってきた。
そのまま、開きっぱなしだった扉を私越しに片手で軽く押し閉めると、再び踵(きびす)を返してソファーへと腰を降ろす。
「……定時過ぎなのに、こちらの会議が終わるまで待っててもらって、申し訳なかった」
「……いえ。終業後の予定も特にありませんでしたし、問題ありません」
「そう言ってもらえると、助かるよ。それで、要件のファイルはその手に持っているもの?」
「あ……そうです。すみません、いつまでも突っ立ったまま……!」
言いながら、根が這ったように動かなかった足をなんとか動かし、ソファーに座る社長の前へと歩をすすめる。
そのまま、おずおずとファイルを手渡せば、やけに緊張している私とは裏腹に、「ありがとう」とだけ言葉を零した社長は、笑顔と共にファイルをその手に収めた。



