焦れ甘な恋が始まりました

 


✽ ✽ ✽



「……え、私が、ですか?」

「申し訳ない。今日は小出くんが休みだし、忙しいのはわかってるんだけど、頼むよ」



金曜日の業務終了一時間前。

突然、総務部長に呼ばれてデスクへと向えば、申し訳なさそうな顔をした部長に、一冊のファイルを手渡された。



「急にクライアントに呼ばれてしまって。今すぐ出なきゃいけないんだ。本当はその前に下條社長のところへ届けようと思ってたんだが、会議中でタイミングが悪くてね。このファイルを届けるだけでいいから、頼まれてくれないか」


「……わかりました」



ファイルと部長を交互に見て返事を返せば、「助かるよ、ありがとう!」と。


それだけ言うと、携帯片手に転がるようにオフィスを出て行った部長の背中を複雑な心境で送り出した。


……寄りにも寄って、下條社長のところへのお使いなんて。


あれから約二週間が経ったといっても、未だに胸の中には最後に見た社長の表情が残ったままだというのに。