背の高い社長を見上げてそんなことを呟けば、視線の先の彼は、「そうでもないよ」と笑った。
柔らかな空気の漂う世界に、社長が好んで纏うシトラスの香りが優しく舞う。
それに、つい目眩を覚えてしまうのは、私の心臓が先程から騒がしく跳ねているせいだろう。
下條社長という、私には到底手の届かないような人に久しぶりに触れ、心が勝手に踊っているせい。
「ところで……それ、どうしたの?」
「え?」
「もしかして、お弁当?」
けれど、そんな風にぼんやりと社長を見上げていれば、突然私の手元に視線を落とした彼が思わぬことを口にした。
慌てて自分の手を見れば、そこには大きな保冷バックが握られたままで、まさかこれがお弁当かと思われたのだと思ったら、恥ずかしさで一気に身体が熱くなる。



