助かるよ、なんて。
今も昔も、そんな言葉を社長本人から貰えるほどの仕事を、私はきっとしてないです。
下條社長はまるで、温かいコーヒーから立ち昇る湯気のような人。
ふわふわと優しく心をくすぐって、目の前で甘い誘惑を囁いて。
それでも決して捕まえさせてはくれずに、口にすれば癖になる苦味を残していく。
そんなことを天然なのか狙っているのか、それさえもわからないほど自然体でやってのけてしまうんだから、本当に罪な男(ヒト)。
「いえ……社長こそ、いつも遅くまでお疲れ様です。今日も、まだ残りですか?」
「うん。先週出張でいなかったせいで、企画部から貰ってる提案書が溜まっててね。今日は、それに一通り目を通してから帰ろうかと思って」
「そうなんですか……大変ですね」



